午前2時をまわった頃、庭の方で小さな物音がした。
カサ・・・
ベッドで寝ていた泉美はこの小さな物音で目を覚ました。最近近所の若い女性がいる家で盗撮が相次いでおり、しかもその画像がネットに出回るという悪質なものだった。24才になった泉美もかなり恐怖感を持っていた。しかし、この盗撮事件には奇妙な点があった。それはネットに出たどの画像も、かなり接近して撮られたものであることだった。被害にあった女性は、全員ベッドに入るときは、玄関はもちろん、すべての窓の鍵をかけていたというのだ。流出したのは、どアップの寝顔や下着の画像で、いずれにしても添い寝でもしないかぎり撮れないものだった。にもかかわらず、全員が『まったく気がつかなかった』と証言していた。
泉美「もう・・・なに・・・?」
泉美は半ば泣きそうだった。されるであろう事はわかっていても、姿が見えないのだ。初めの小さな音以来、まったく物音はしなかった。しかし、泉美は家に侵入した者の気配を感じとっていた。そしてそれが徐々に近づいているいることも・・・。
泉美「正体がわかったらただじゃおかないんだから・・・!」
強がってはみたものの、護身術を身につけているわけでもなく、やっぱり怖かった。息を殺して待つしかなかった。
すると突然、小さな音がした。それはまぎれもなくカメラのシャッター音だった。泉美は布団をはねのけて起き上がった。
泉美「ちょっと!何してんの!?・・・あら?」
電気をつけ、怒鳴ったがそこには誰もいなかった。どこかに隠れているのかと部屋中探したがいなかった。そして何気なく床に目をやった。
泉美「・・・?きゃあ!」
見下ろした先には身長4センチ位の人間が、カメラを持って立っていた。小人は泉美に気付かれたことがわかると、ドアの方へ逃げ出した。
泉美「あ!待て!!」
泉美は小人の前に回り込んで、仁王立ちになった。
小人「ひい!ご、ごめんなさいぃぃ!出来心だったんです!」
土下座をして謝る小人の腹部をつまみ上げて手のひらに乗せた。その時、ポケットから何か四角いものが落ちた。
泉美「・・・何しに来たわけ?」
小人は手のひらの上でも土下座をしていた。
泉美「何しに来たかって聞いてるんだけど?答えないと警察呼ぶわよ?」
小人「・・・っく!こうなったら仕方がない。・・・あ、あれ?」
小人は必死に両方のポケットをあさっていた。
泉美「あんたが探してるのってこれかしら?」
泉美の親指と人差し指の間には、小人をつまみ上げた時に落ちた四角いものがあった。
小人「あ、ああ!」
泉美「何なの?これは・・・」
よく見ると、テレビのリモコンのようにボタンが並んでいた。
小人「か、返して!」
泉美「何をする物なのこれは?質問に答えなさい!!」
小人「そ、それがないと元の大きさに戻れないんだ!頼む!」
泉美「あっそ。じゃ、返す前にここに侵入した目的を教えてもらおうかしら?」
小人「それは・・・その・・・」
泉美「答えないんなら床に落とすわよ?」
実際は130センチ位の高さでも、この小人にとっては50メートル以上の高層ビルにいるようなものだ。落とされたらどうなるか・・・想像するのに時間はかからなかった。
小人「っく!ここまでか・・・。ここに入り込んだのは盗撮のためさ。最近この近辺での事件の犯人は俺さ・・・」
泉美「ふ〜ん・・・そう・・・あんただったの。」
小人「ほら、言ったぜ。返してくれよ。自首するからさ・・・」
泉美はリモコンを小人の前に持っていき、渡すふりをして捻り潰した。リモコンはあっという間にバラバラに砕け、破片になってしまった。
小人「なんて事するんだ!」
泉美「あんたは・・・自首する必要ないわ・・・」
小人「元に戻れないじゃないか!」
泉美「戻る必要もないわ・・・」
泉美は凍りつくような目で小人を見下ろしていた。
小人「な、何をする気だ・・・?」
泉美「今まで被害にあった人達の恨みを、体で思い知ってもらうわ・・・」
泉美は軽く舌なめずりをして、上唇を唾液で湿らせた。
小人「ちょっと待ってくれ・・・冗談じゃないぞ・・・!」
泉美「ふふふ・・・もちろん冗談なんかじゃないわ。本当だったら気が済むまで痛めつけるんだけど、夜も遅いし、明日仕事なの。
だから、すぐに終わらせてあげるわ。」
泉美は小人の足首をつまんで、頭の上に持っていった。そして、この非道な盗撮犯に死の宣告をした。
泉美「ふふふ・・・今までさぞ楽しかったでしょうね。でもそれも今日までよ・・・。楽しんだ分、苦しんで死になさい。」
小人「や、やめて・・・」
泉美は口を『クチャァ』という唾液の音とともにめいっぱい開いた。真っ白な歯が唾液に濡れ、完璧な歯並びを形作っており、ピンクに近い赤色の舌はうねうねと小人の落下を待ち望んでいる。上顎、下顎、舌の間には、唾液が数本糸を引いていた。
小人「やめてくれ!何でもするから!」
泉美「そう・・・いい心がけね。じゃああたしの栄養になりなさい。」
泉美は足首を摘まんていた指の力を緩め、小人を口内に落とした。舌の上に落ちた小人は今日のあまり腰が抜け、ほふく前進をするように脱出を試みた。しかし、その努力もむなしく、巨大な口は轟音とともに閉じられた。真っ暗な口内で、小人は容赦なく下に弄ばれた。左右に振り回され、転がされ、体のあちこちを岩のような歯にぶつけられた。唾液が顔の穴という穴のどんどん入り込んできて、小人は大量の唾液を飲んでしまった。酸臭の充満する口内で、小人はすでに死にそうになっていた。皮膚は唾液でふやけ、全身を甘噛みされ、傷だらけになっていた。すると急に舌の動きが止まり、小人は上顎と舌に挟まれて動けなくなった。そして凄まじい力で口の奥に吸い込まれた。
ゴクリ
生々しい音とともに、小人の体は逆さまになった。粘液に濡れた壁に包まれ、耳元で太鼓を叩くような心臓の鼓動を聞きながら、胃袋に向かって運ばれていった。そして小人は広い空間に放り出され、ドロドロした海に落ちた。嘔吐物の匂いが小人の鼻をついた。
小人「こ、ここが胃袋・・・か」
突然、胃袋全体が大きく動き、小人は胃液の海に沈んでしまった。泉美がベッドに横になり、寝たためだった。動きがおさまり、胃液の水面から顔を出すと、小人は体の異変に気づいた。全身が痛がゆく、ヒリヒリするのだ。
小人「消化が始まったか・・・俺の命もあと少しか・・・」
よく耳をすますと、胃が活動する音、心臓の鼓動の中に、泉美の寝息が聞き取れた。
小人「まあいいか・・・このままゆっくり溶かされて、彼女の栄養になれるんだもんな。彼女、美人だったなぁ・・・」
そんな事を言った直後、小人の腹部に激痛が走った。消化が進み、皮膚が溶け、胃液が腹腔内に流れ込んで内蔵が消化され始めたのだ。
小人「うぎゃああああああ!」
小人は胃液の海でのた打ちまわった。数分間、地獄のような痛みと苦しみを味わい、ついに意識を失ってしまった。数時間後、小人の体は髪の毛と骨以外はすべて溶けて無くなった。
翌日の朝、泉美はいつも通りに朝食をとり、出勤までの時間を過ごしていた。しばらくすると便意をもよおしてトイレへ。
泉美「あ、きたきたw」
彼女はこの時を心待ちにしていた。便を出し終えると、それを観察し始めた。
泉美「どこかな〜・・・あ!見〜つけた!」
視線の先には、小さな頭蓋骨と隣には大腿骨があった。
泉美「ふふふ・・・苦しかっただろうね。でも自業自得だよ、変態さんw」
レバーを捻り、小人の死骸が入った便を流した。
泉美「これでよし・・・と」
泉美は何事もなかったように出勤し、近所に住む同僚と合流した。
同僚「おはよー。ねぇ、今朝早くに泉美の家から悲鳴みたいなのが聞こえたけど、なんかあったの?」
泉美「ああ、あれは夜トイレに起きたら、おっきなゴキブリが出たのよ〜。もうビックリしちゃって・・・。ごめんね〜うるさかった?」
同僚「ううん、それくらいの事で安心したよw」
昨夜の出来事以来、盗撮サイトの更新は止まり、事件の真相は闇に消えた。